コンパクトカメラの歴史をひもとく上で、欠かせないのがこのローライ35。
30年以上も前のカメラなのに、今もそのユニークさは独特だし、
「質感」、つまり手にしたときの満足感の高さは比べるものがないほどです。
どうしてこの小さなカメラに、そんなに魅力があるのでしょうか。
無理矢理分析してみると、魅力の要素は次のようになります。
まず、ツアイスの傑作レンズ「テッサー」をはじめ、
デッケル社のシャッター「コンパー」、それにゴッセンの露出計という
当時のドイツのカメラの一級品を惜しげもなく搭載していること。
さらに、それらをハーフサイズのカメラより小さいボディに押し込んでいること。
それを実現するために、類を見ない独創的な機構が考案され、
その結果として、「凝縮の美学」のようなものが生まれています。
クラシックカメラファンとしても知られている赤瀬川原平さんが
尾辻克彦の名前で出されたカメラ関係の本として初期の、
その名も「カメラが欲しい」には、次のように書かれています。
たとえばミノックスに触れる人がたまらずに痺れてしまうのは、
あのトロの刺身ぐらいの小さなボディにさまざまな機能がギッシリと詰まっているからである。
そのギッシリの精密感に痺れてしまうのである。
やはり機能を損なわずにその大きさをギリギリまで切り詰めたものが、
精密機械の輝きを放つのである。そこに物体(カメラ)マニアの原点があるのだと思った。
辻本もまったく同じ思いです。
加えて、機械式マニュアルカメラは、古くならないのです。
電池が切れて、露出計が動かなくても、適当に写ります。
トラぶっても、かなりの確率で修理が可能です。
このカメラも、落としたり、壊したりしながら、
未だに現役で、スイス鉄道旅行でも伴侶になりました。
次のページからは具体的に魅力をひもといていきます。
もう少しおつきあい下さい。
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